★夏バテ解消のヒント

未知の機能性を秘めた菌類ーそれがキノコ
 
人間の体には、ウィルスや菌類などの外敵から身を守る「免疫」の仕組みが本来備わっています。
 しかし、免疫機能のピークは20代。加齢とともに免疫力は衰えていきます。また、ストレスや生活習慣によっても、自律神経の乱れからホルモンバランスがくずれて、免疫力が低下することもあります。
 免疫力が低下すると、風邪やインフルエンザといった感染症ばかりでなく、花粉症などのアレルギー疾患、ガンや自己免疫疾患の発症にも影響をおよぼしかねません。免疫力にスイッチを入れるキノコの機能性成分の実力を、探ってみましょう。

 

キノコは「菌類」です。
植物や動物にない特殊な機能性成分が豊富です。
   
 キノコはスーパーなどでは野菜売り場に置かれていますが、光合成を行なわないので植物ではありません。もちろん動物でもありません。キノコはカビの仲間の菌類、正確には「高等菌類」です。人間の食べ物の中で、菌類そのものを食べるのはキノコだけです。
 キノコには、なぜ人間の体によい働きをする成分が含まれているのか。それは生物界の中の役割分担と関係が深いと考えられます。
 生物界の中で、植物は「生産者」です。光合成によって二酸化炭素から酸素をつくり出し、糖分などの有機物を合成します。動物は「消費者」で、植物がつくり出したものを消費しています。では、菌類の役割は何かというと、「分解者」。命を終えた動植物を分解して地に戻す、生物のサイクルの環をつなぐ役割を担っています。
 キノコなどの菌類、植物、動物はそれぞれの役割の違いから、つくり出す化合物も微妙に違います。そして、この違いが、ときとして人間に有用な働きをする、
ほかにはない優れた機能性成分をつくり出していると考えられます。

キノコがもつ「多糖類」には
免疫を活性化する作用を、ときとして示すものがあります。

 キノコ類には、共通して糖質とたんぱく質が多く含まれ、これらは多糖や糖たんぱくの形で存在しています。その中でもいち早く注目されていた成分は多糖類の一種の「βーグルカン」です。
 このなかには、人間の免疫力を活性化する作用を示すものがあり、日本ではシイタケの子実体を原料にした
レシチナン、スエヒロタケの菌培地生産物を原料にしたシゾフィラン、カワラタケ菌糸体を原料にしたクレスチンと、3種類の抗がん剤が実用化されています。これらは、坑腫瘍性を示すβーグルカンを利用した医薬品です。
 また、キノコが免疫を活性化させるスイッチは、ひとつではありません。私たちが食べているキノコは秋に生育する子実体ですが、ここでつくられた胞子が冬を越して、春になると菌糸が成育を始めて、秋にはまた子実体となります。このキノコのサイクルの中で、子実体、胞子、菌糸体のそれぞれが、異なる種類の物質をつくっています。βーグルカンに限らず、さまざまな機能性成分が、人間の免疫機能を活性化させる可能性を秘めていると思われます。

キノコの「子実体」と「菌糸体」の違い

 菌類の中で「カタチになるもの」が一般にキノコと呼ばれています。カタチの部分を学問的に「子実体」といいます。通常、食用とするのは、この「子実体」の部分。
 しかし、菌類であるキノコは普通「菌糸体」という菌糸の状態で存在し、温度や湿度、栄養などの条件が合ったときに「子実体」が出現します。
 キノコの健康食品には、
「子実体を粉末やエキスにしたもの」と「菌糸体を培養してエキスにしたもの」の2通りがあります。
菌糸体は子実体をつくり、その子実体は繁殖するために胞子を生み、その胞子が土に落ちて菌糸体をつくる。

免疫力の活性化、抗腫瘍作用、
コレステロール低下作用・・・など
キノコにはさまざまな機能がある。


メシマコブ
メシマコブの優れた抗腫瘍作用を最初に発見したのは、日本の科学者です。
 メシマコブは、ヒダナシタケ目タバコウロコタケ科に属するキノコです。和名のメシマコブは、かつて長崎県の女島というところに多く自生していて、形がコブ状なことから命名されたそうです。
 メシマコブの優れた抗腫瘍作用を、最初に発見したのは日本の科学者です。1968年に日本の国立がんセンターがいろいろなキノコの腫瘍阻止率を調べたところ、メシマコブは96.7%というずば抜けた数字だったのです。
 しかし、メシマコブは桑の木に寄生して宿り木を枯らしてしまうことから、昔はすぐに伐採されてしまったようです。そのうえ、成長するスピードが遅くて、直径30cmの大きさになるまでに20〜30年もかかるために、自生しているメシマコブを採取するのは非常に困難です。
 手に入りにくく栽培も難しかったことなどから、40年近く前にメシマコブの優れた抗腫瘍作用が発見されていたにもかかわらず、それ以降研究が進まなかったのです。


ガン細胞の成長を抑える効果
腫瘍細胞移植マウスにメシマコブを投与したところ、腫瘍の大きさは19日後も、ほとんど変わらなかった。

近年、韓国で研究が進み抗ガン性免疫増強作用を確認。医療現場でも使われています。
 韓国では1992年から国家事業として、メシマコブの研究プロジェクトが始まり、韓国生命工学研究所で、メシマコブの菌株の培養に取り組みました。そして抗ガン作用を強く示す菌株「PL2」の選定と、その菌糸体の培養に成功したのです。菌糸体は、タンクの中で大量に培養することができます。
 このプロジェクトでは、菌糸体エキスを使って
ガンに対するメシマコブの有効性をさまざまな角度から研究しています。ガンをもったマウスにメシマコブを投与して、ガンの成長を抑える効果。抗ガン剤と併用することで、ガンをもったマウスの生存期間を延ばす効果。メシマコブの細胞に対する毒性なども研究されています。
 また、消化器系のガン患者さんを対象にした臨床実験も行なわれて、メシマコブの有効性が確認されています。抗ガン剤を使う化学療法では、副作用で患者さんの体力や免疫機能が低下することが多いのですが、メシマコブを併用すると免疫力の低下を防ぐほか、一部の患者さんの免疫機能が改善されたと報告されています。
 こうして、メシマコブの菌糸体エキスは、
韓国の厚生省から免疫増強のための医薬品として認められたそうです。ただし、ここで大切なのは、これらの有効性性は、PL2菌株によって抽出されたメシマコブの菌糸体エキスでのデータである、ということです。

抗ガン剤と併用した効果
メシマコブと抗ガン剤(アドレアマイシン)の両方を投与すると、腫瘍移植したマウスは60日を過ぎても90%が生存し続けた。
花粉症をはじめとするアレルギーなどにもメシマコブエキスは有効です。
 メシマコブには免疫細胞を活性化する作用がありますから、免疫機能が低下することによって起きる病気、例えば花粉症をはじめとする各種のアレルギー疾患にも有効だと考えられます。
 実際に、メシマコブを使っている体験者からは、花粉症の症状が軽くなったという体験者の声が数多く上がっています。
 もちろんどんな人にも効くわけではありませんが、現在、
メシマコブエキスの中の抗アレルギー成分を、動物実験で研究されています。有効成分を、物質レベルで特定したいですね。
 韓国ではメシマコブの菌糸体を使っています。日本でも最近は菌糸体の研究が進んでいます。メシマコブの新たな機能性成分を特定できたら、面白いですね。


アガリクス・ブラゼイ
 
動物実験のレベルで抗腫瘍作用がかなりよい結果で確かめられました。
 
一般にアガリクス・ブラゼイといわれているのは、ハラタケ科ハラタケ属のキノコで、学名は「アガリクス・ブラゼイ」。料理に使われるマッシュルームの学名もアガリクス・ビスプルスで、同じ属のキノコです。
 1989年にアガリクス・ブラゼイの抗ガン作用が発表されました。おなかにガンのできたマウスに、アガリクス・ブラゼイから抽出したさまざまな成分を与えたところ、何も与えないマウスにくらべて、
腫瘍が成長するのを阻害する確立が90%以上と、かなりよい結果が得られました。また、てせきてしまった腫瘍も非常に高い確立で治癒しました。マウスのガンに働いた有効成分は、糖たんぱく質です。
 これは、アガリクス・ブラゼイのごく初期の研究ですが、その後、100以上の論文が発表されています。試験管内の実験では、ガン細胞を殺す成分が検出されていますが、人間に対する有効性の確認はこれからです。
 また、アガリクス・ブラゼイの多糖類の一種で、もっとも強い活性を持つ成分であるβーグルカンは、水に溶けない性質をもつものがあります。このため、特殊な方法で抽出しないと、ほとんど溶け出していないと思われます。また加熱しないで食べると副作用の心配があるので、とくに肝臓の悪い人は、アガリクス・ブラゼイの粉砕物をそのまま服用するのは控え、
有効成分を抽出したエキスを使用したもののほうが良いでしょう。


マイタケ
有効成分Dーフラクションは免疫活性化作用や抗ガン作用が確認されています。
 マイタケの有効成分は、「Dーフラクション」という物質で、βーグルカンとたんぱく質が結びついたものです。この成分は、日本ではじめて抽出され、さらにマウス試験で抗腫瘍の有効性も証明されました。その後、アメリカで注目を集め、ヒトを対象にした臨床試験が重ねられて、免疫機能を活性化する作用や、ガン細胞の自然死を誘導する作用が確かめられています。また、抗ガン剤の働きを増強する作用も確認されています。
 現在、マイタケをそのまま食べることで抗ガン作用があるかどうか研究されていませんが、Dーフラクションを効率よく摂取するには、
サプリメントで補給するのもよいと思います。

効果的にキノコを
健康維持に役立てるには・・・。


人とキノコには相性があります。じぶんの体質に合うかどうか、数カ月試してみることです。
 キノコの有効成分の中心で研究がもっともさかんに行なわれているβーグルカンなどの多糖類ですが、この物質はほんんど消化吸収されません。しかし、ごく一部だけが吸収されて、免疫反応のスイッチをいれると考えられています。
 多糖類は種類も多いうえに、人間の体との応答経路も複雑です。このため、この病気にはこのキノコ、このガンにはこのキノコというよりも、その人の体質に合うかどうかということのほうが、より重要と考えられます。メシマコブでもアガリクス・ブラゼイでも、摂って非常に効果がある人もいれば、あまり効かない人もいます。人とキノコにも相性があるのです。今のところ、自分に合うキノコは、自分で試してみるしか方法はありません。
少なくとも3ヶ月は摂り続けて目的とする効果が得られなければ、別のキノコを試してみるとよいかもしれませんね。

キノコにはそれぞれ異なった働きがあり、さらに未知な機能性も期待できます。
 食卓でおなじみのシイタケやエノキダケ、マイタケには、コレステロール低下作用があります。とくにシイタケは作用が強く、エリタデニンというコレステロール低下物質を含んでいます。
 また、一般にシメジとして販売されているヒラタケには、食欲を抑える働きのあるたんぱく質が含まれることが動物実験で確認されています。これはダイエットに利用できるかもしれません。
 まだ知名度は低いのですが、ヤマブシタケというキノコには、
脳機能を改善する働きがあります。最近、ヤマブシタケには発毛効果もあることがわかってきました。
 スーパーで買える身近なキノコにも、未知な機能性が秘められている可能性があります。菌類そのものを食べるのはキノコだけですから、もっと食卓にのぼる機会を増やしてほしいものです。