★体をつくる、すべてのもと アミノ酸

アミノ酸はたんぱく質を合成する材料、体はアミノ酸からできている
 私たちの体は、約60%を水分が占めています。残りの40%のうちの約4割がたんぱく質、あとは脂肪とミネラルという構成になっています。たんぱく質は体の主な構成成分で、大きさや働きが何千種類ものさまざまなたんぱく質から体は成り立っています。このたんぱく質はすべてわずか20種類のアミノ酸から合成されたもの。私たちの体の主要な部分は、アミノ酸が連なったたんぱく質でできていると考えていいでしょう。
 しかも、
たんぱく質は、体の中で毎日アミノ酸に分解され、つくりかえられています。例えば、たんぱく質が原料となる髪の毛や爪は毎日伸びています。皮膚も古いものは垢となってとれ、その下には新しいものができる、いわゆる新陳代謝が絶えず行われています。そのほかにも血液中の細胞である赤血球も毎日壊され、新しく作り変えられています。肝臓や腎臓などの臓器の細胞においても同じことです。

アミノ酸には「必須」と「非必須」があり、重要度は体の中では同等
 20種類のアミノ酸のうち9種類の物は、私たちの体の中で合成することができなかったり遅いため、食べ物から補わなくてはいけません。これらを「必須アミノ酸」と呼んでいます。
 「非必須アミノ酸」は残りの11種類ですが、アミノ酸としての体内での重要度は必須の9種類のアミノ酸と差異はありません。
20種類のアミノ酸のどれが欠けてもたんぱく質の合成には不都合が生じます。
 また、別の観点からすると、本当に大事なアミノ酸だからこの11種類のものを合成できるように、人間のからだが進化したのかもしれません。人間の体にとっては非必須アミノ酸のほうが必須アミノ酸より重要だとも言えます。

たんぱく質の「質」を評価する必須アミノ酸の含有量はアミノ酸スコアで

 たんぱく質の「質」は、それを構成する”アミノ酸のバランス”が大きなキーポイントになります。
 最近では、1985年FAO(国際連合食料農業機関)、WHO(世界保健機関)、UNU(国連大学)が定めたアミノ酸評点パターンを基準にしたアミノ酸スコアが、主に用いられています。これは、必須アミノ酸の必要量を100として、ほかの食品を評価したものです。つまり、
スコア100に近いほどアミノ酸補給に適した良質なたんぱく質といえるでしょう。

必須アミノ酸のバランスが有効に活用されるか否かの「鍵」を握っている
 アミノ酸の栄養学には「桶の理論」と呼ばれているものがあります。必須アミノ酸の一つひとつが、桶の側版を構成していると考えてください。
 食事から摂ったアミノ酸には、どうしても余るアミノ酸と足りないアミノ酸が出てきてしまいます。桶にたとえると、水は側版の一番低いところまでしか入りません。それと同様に、たんぱく質が合成されるときには、
すべての必須アミノ酸がそろったところまでしか利用されないのです。余分なアミノ酸は、合成されずに捨てられてしまいます。もし、すべての必須アミノ酸がそろっていれば、残らず有効に活用することができます。つまり、必須アミノ酸のバランスが有効活用の鍵を握っているのです。

たんぱく質の栄養価は必須アミノ酸によって決まる
「アミノ酸(桶)の理論」

例えば、一種類のアミノ酸でも含有量が満たされないと、
他のアミノ酸は、そのアミノ酸と同じ量しか活用できません。


アミノ酸は体に貯めることができない、毎食補うのが理想的
 ポイントになるのは、アミノ酸には貯蔵器官がないということです。他の栄養素の例をあげると、体内で糖分が余れば、肝臓や筋肉中にグリコーゲンとして貯蔵することができます。脂質が余れば、内臓脂肪や皮下脂肪として貯蔵されて、エネルギーが足りないときに使えます。しかし、余ったアミノ酸は体内に貯蔵できないので、分解されてしまいます。
 食事で摂ったアミノ酸がたんぱく質の合成に使われるのは、食後2〜3時間以内です。その場にたんぱく質の合成に必要なアミノ酸が揃わないと、合成に使われなかったものは分解されてしまいます。
 ですから、たんぱく質を摂るときには、
一食単位で必須アミノ酸のバランスがとれているかどうかが、大変重要です。

一つの食品では、バランスよくアミノ酸を摂ることはできない
 一般に動物性たんぱく質には、すべての必須アミノ酸がほぼバランスよく含まれています。これに対して、植物性たんぱく質には1つか2つ不足する必須アミノ酸が見られます。例えば、穀類にはリジン、豆類には含硫アミノ酸(メチオニンなど)が不足していますが、献立を工夫していろいろな食品を組み合わせることで、バランスの悪さを補うことができます。

アミノ酸の摂取量は年齢とともに低下する、ビタミンB6と一緒に摂る
 日本人のたんぱく質の摂取量は成人の場合、1日あたり平均70g。そのうちの半分を動物性たんぱく質から摂っていれば、必須アミノ酸の不足をさほど心配することはありません。
 しかし、高齢に成るとどうしてもあっさりした食事を好むようになり、さらにたんぱく質の吸収力もおちてくるので、アミノ酸不足になりがちです。少し栄養のことを考えながら食事をし、アミノ酸の形で摂れるサプリメントなどで補うとよいでしょう。ご飯や麺を主にした穀物中心の食事では、必須アミノ酸のリジンが不足しやすくなりますが、その副菜として植物性たんぱく質の中では例外的にリジンを多く含む、大豆を使った煮豆などと一緒に摂ることで、補うことができます。
 また、たんぱく質の代謝にはビタミンB6が重要な働きをしています。体内で非必須アミノ酸を合成したり、アミノ酸をエネルギーとして燃やすときには、トランスアミラーゼという酵素が活躍しますが、
ビタミンB6にはこの酵素を助ける補酵素としての働きがあります。

うまみ成分グルタミン酸もアミノ酸の1つ
意外な食品にも、アミノ酸がたくさん含まれています。昆布やシイタケなどのうまみ成分グルタミン酸も、非必須アミノ酸の1つ。グルタミン酸は、穀類や種実類、野菜などにも含まれています。タケノコの白い粉状の成分チロシンも、非必須アミノ酸。さまざまな食品をまんべんなく食べることで、気ずかないうちにアミノ酸を摂っているのです。
アミノ酸プール
日々新たにつくり変えられている体内のたんぱく質が、分解されて遊離するアミノ酸は、細胞内や血液中にいったん溜まり場をつくります。これが「アミノ酸プール」で、ここに食事から摂取されたアミノ酸もはいり、アミノ酸プール中のアミノ酸を用いて新たなたんぱく質がつくられます。

体内でアミノ酸が素材となって生成される物質
アミノ酸  物   質
シスチン(システインが2つ結合したもの) グルタチオン:坑酸化物質の一種
メチオニン コリン:神経伝達物質アセチルコリンの構成成分
カルニチン:脂肪の代謝に役立つ
グルタチオン:坑酸化物質の一種
グリシン クレアチン:エネルギー代謝に役立つ
リジン カルニチン:脂肪の代謝に役立つ
トリプトファン ナイアシン:ホルモンの一種
セトロニン:神経伝達物質の一種
フェニルアラニン
チロシン
アドレナリン:ホルモンの一種
ノルアドレナリン:ホルモンの一種
セリン コリン:神経伝達物質アセチルコリンの構成成分

体のあちらこちらで活躍するアミノ酸
 「脳」
アミノ酸をバランスよく摂って神経伝達物質の働きを活性化

 脳の働きをコントロールしているのは、刺激を伝える神経伝達物質です。体の中に入った必須アミノ酸のトリプロファンは、脳に運ばれてセロトニンという鎮静や精神安定作用のある神経伝達物質をつくり出します
 また、必須アミノ酸のフェニルアラニンは、反対に神経を高揚させる神経伝達物質をつくります。
 非必須アミノ酸の1つチロシンはアドレナリンやドーパミン、グルタミン酸は神経鎮静作用のあるギャバ(ガンマ-アミノ酪酸)といった神経伝達物質の材料になるなど、それぞれのアミノ酸が固有の働きをしています。


 「皮膚」
皮膚をみずみずしく保つ保湿成分としても活躍
 皮膚の弾力性を保つために、アミノ酸は大きな役割を果たしています。皮膚の弾力をつくっているのは真皮ですが、その主成分はたんぱく質の一種のコラーゲンです。このコラーゲンはプロリンやアラニン、グリシンといった非必須アミノ酸などからつくられます
 たんぱく質が足りないと皮膚がカサつきやすくなるので、きちんと補うことが大切です。


 「肝臓」
肝臓の解毒作用には、多くのアミノ酸が関与

 
肝臓は体内に入ってきた有毒なものを無毒化したり、活性をなくす働きをしています。ここで活躍しているのが、シスチン、グリシン、グルタミン酸などのアミノ酸です。
 シスチンはイオウを含んでいる含硫アミノ酸の一つで、体内で代謝されるとイオウを出してほかの物質と反応して解毒します。また、飲酒や喫煙などによって生じる
活性酸素から体を守る坑酸化作用をもつグルタチオンが、シスチンからつくられます。

 
「筋肉」
材料になるだけでなく筋肉のたんぱく質の合成を調整

 
必須アミノ酸のバリン、ロイシン、イソロイシンは、筋肉の代謝にかかわっています。主に筋肉のたんぱく質の材料になりますが、ロイシンにはこのたんぱく質の合成を調整する役割もあります。
 筋力や筋肉量を増やしたいときには、
たんぱく質の多い食事やサプリメントのアミノ酸を効率よく補うと効果的です。

 「ストレス」
アミノ酸によってストレスへの抵抗力が増す可能性も
 
ストレスを受けると、それに対抗するために体はさまざまな物質を作り出します。その1つがストレスたんぱく質です。まだ動物実験の段階ですが、非必須アミノ酸の1つシステインに、ストレス耐性を高める働きがあるのではないかと考えられています。

「アミノ酸は生命活動に必要な、基本的な物質です。健康な毎日を送るためにも、
20種類のアミノ酸すべての総合力を活用しましょう」